死に逝く人と死なない疑似人格が語る中、物語の本質を描く。長谷敏司『あなたのための物語』

長谷敏司『あなたのための物語』
「2083年。シアトルにある人工神経の企業ニューロロジカル社の創始者のひとりであるサマンサ・ウォーカーは、自身の開発である人工神経NIPによって脳内に疑似神経を作り、それに経験や感情をダイレクトに伝える、ITPという言語（プロトコル）を作ろうとしていた。この画期的かつ社会的に問題のある発明・ITPの試験のために、NIPで作った神経にITPの疑似人格を作って、最大の問題である平板化の解決に役立てようとする。物語を書く実験のための疑似人格『wanna be（なりたい）』は起動し、サマンサに『わたしは何かお役にたてますか』と繰返す。だが彼女はその『道具』である『wanna be』に道具として対処するだけだった。しかし、サマンサはその後急な体調の不良を訴えて・・・・・」
早川書房---------ハヤカワSFシリーズ　Jコレクション--------2009年---------1600円

「円環少女」や「フリーダ」の長谷敏司氏の新刊です。実は発売日の次の日には買ってたのですが、忙しくて後回しに。「戦闘妖精」の新作もまだ読めてない・・・。
以前から長谷敏司氏の力量には驚かされるばかりでしたが、これは完全にそのサイズを見誤っていたと思い知らせるに足る凄い物語でした。今まで立て続けに「円環少女」読んできて、「理系ファンタジーラノベの俊英」程度の理解に安易に落ち着けていた評価が、これでいきなり二階級特進くらいになる作品ですよ。そうそう。もとはといえば「戦略拠点32098　楽園」も「天になき星々の群れ　フリーダの世界」もSFでしたしね。てか、どうやらこの小説は「楽園」の2000年くらい前の話として位置するらしいです。

この物語は、2083年という未来の話です。アメリカのシアトルにあるニューロロジカル社という人工神経を扱う企業の創業者で共同経営者でなおかつ38歳の現役の研究者サマンサ・ウォーカーという人が主人公で、彼女が開発中のITP（Image Transfer Protocol）というもののために、疑似人格が量子コンピューター上に作られるところからはじまります。疑似人格「wanna be（なりたい、の意）」は、その試験のために、人に作られた人格でありながら、物語（小説）を作る作業をやらされます。これはニューロロジカル社が作っているNIPという人工神経（ナノマシンみたいので作る）が、使用者に「平板化（フラット化）」と呼ばれる感情や感覚の不良状態を起こすことが問題になっていたため、その解決にこの疑似人格の反応が参照されることになったのです。「wanna be」が作る物語が、ある一定以上の作品となっているならいい、という試験です。
疑似人格とはいっても、結局は道具でしかない、とサマンサは思っているのですが、そんな彼女に人生の転機が、それも悪いものが訪れます。突如倒れた彼女は、自分が病気でそう長く生きられないということに直面するのです。
こうして、死を目前にした研究者サマンサと、そんな彼女の研究の対象であり、彼女へ物語を書き続ける疑似人格「wanna be」の、緊張と齟齬と苦悩に満ちたやりとりがはじまるのです。

死とは、人間とは、社会とは、言葉とは、物語とは、生命とは、といった重いテーマが、キャラクターたちの理屈でくくりあった話し合いの中で、そして死にゆく主人公サマンサの感情まみれだが論理だった懊悩と吐露の中で表されていくのです。
うーむ、私は不快感を味わいながら読み続けましたが、非常に面白かったです。なんで不快だったかと言うと、やはり、私の立ち位置が<<サマンサ>>にあたるからじゃないかと。私があの醜悪なサマンサ以下だと断じられた気がしました。
しかし、そこは私の問題であって、この作品を損なうようなものではなく、むしろ良い点だと評価したいです。特に作品の内容は、ここ最近読んだりした中では最も私の求めるものにピンポイントなものでした。
これは極上のSF作品として多くの人にお薦めしたいと思います。「円環少女」の読者の方には、あれとはちょっと作風がシリアスなので、ご注意を。むしろ初期作品に近いですよ。てか、この作品がきっかけで、「楽園」と「フリーダ」を重版とかしてくれないかなー。

　　
「火星年代記」「一九八四年[新訳版]（1984）」「楽園の泉」

　　
「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0 Blu-ray BOX」「ハーモニー」「戦略拠点32098　楽園」
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新作ゲーム紹介：「Ｗｉｉフィットプラス」　大ヒット健康ソフトに強化版登場
いつも思うんだけど、部屋でこんなことやってる時点で健康じゃないだろ。

ＵＳＢオモチャでヤル気“充電”　市場は急拡大中！（zakzak）

マンガやゲームに夢中となり、現実社会と向き合わない男のせいで日本は衰退していく…英BBC記者（痛いニュース）

そういや、29日に秋葉原で外国人参政権反対のデモがあったのに全然ニュースになってませんね。
私は外国人参政権に大反対です。外国人に参政権て、普通に考えれば筋が通らないんだけど、なぜかそう主張するやつらがいる。意味わからんよ。ちゃんとこの国の人間になろうって気がないやつが何するつもりかと。

資生堂　d-comic新創刊
またweb漫画雑誌ですよ。おかざき真理の「風のなまえ」ほか。てか、もう２号なのか？。創刊号って読めないのかな？

後半は殆どジュディ姐使ってた!（ふかふか天職）

紐水着の黄泉（はらぽこ)（Yasuomi-Craft）

そういえば、「蓬莱学園」やら「マリオン」やら「サマー/タイム/トラベラー」なんかの新城カズマ（新城十馬）氏が新刊出しましたね。上下巻で。しかも続くようです。これも読まないとなー。

　　
「天になき星々の群れ—フリーダの世界」「15×24 link one せめて明日まで、と彼女は言った」「15×24 link two 大人はわかっちゃくれない」
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関連サイト
青灰色blog（長谷敏司公式）
http://pub.ne.jp/para_shift/
DE BREVITATE VITAE（長谷敏司公式）
http://www7.plala.or.jp/para_shift/
ハヤカワ・オンライン｜早川書房のミステリ・SF・ノンフィクション
http://www.hayakawa-online.co.jp/

この記事もどうぞ。
神は死んだ・・・・そしてドSの魔法少女、ここに爆誕っっ！！！　長谷敏司『円環少女（サークリットガール）』第10巻　運命の螺旋
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人型の新兵器・福神に乗る者たちが我を通そうとするままならない戦い。福島聡『機動旅団八福神』シリーズ。第８巻まで
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人類が滅亡してもなお引き継がれる想い。壮大なスケールのSF作品。Boichi（ボウイチ）『HOTEL（ホテル）Boichi作品集』
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収まり切らないほどの広大さ。近未来SF超大作。士郎正宗『攻殻機動隊　THE GHOST IN THE SHELL』（第１巻）
http://mamiduku.blog.shinobi.jp/Entry/1097/


追記
思い出したけど、立川恵の「電脳少女Mink」も「wanna be」でしたよね。


「電脳少女Mink 6」